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第245話

弥生が携帯を差し出すと、瑛介はメッセージの内容を確認した。

彼が目を大きくしたのを、弥生ははっきりと見て取った。おそらく、奈々が外に出てしまったことに緊張しているのだろう。

彼女は顔をそらし、肩にかけられた上着を脱ごうとしたが、その時に瑛介が「ちょっと出かけてくる」と言ったのが聞こえた。

結果はすでに予想していたものの、彼の口から聞かされると、やはり心が重く感じた。

弥生は「分かった」と答え、上着を脱いで返そうと立ち上がった。

すると、瑛介は彼女の手を押さえて言った。「そのまま着て」

「でも、外は寒いわ」と弥生は少し戸惑って答えた。

「いいよ」瑛介は少し強い口調で言い返した。「君が着ていて、すぐに戻ってくるから」

そう言って、彼は手術室のランプを一瞥した。

「手術はあと一時間だ。この間に戻ってくるから、何かあったら電話してくれ」

弥生は唇をかみしめ、かすかな声で「分かった。両親にも話しておいてね」と答えた。

「うん」と瑛介は頷き、彼女の手を放して、父と母のもとへ向かった。

瑛介の母は彼が外出することを聞くと、すぐに不満そうに目を見開いた。

「こんな時に、どうして出かけるの?お前にとっておばあちゃんは大事ではないなの?」

瑛介は唇を強く引き締めて黙っていた。彼の沈黙に、瑛介の母は胸をつついて言った。「何しに行くつもり?」

彼は言葉を発しなかったが、その表情からどうしても外出する意思が伝わってきた。

瑛介の母は冷笑し、「弥生が出かけることを許可したのか?」と尋ねた。

瑛介はようやく頷いて見せた。

その言葉に、瑛介の母は少し信じられない様子だった。

「なんだって?彼女が許可したの?」瑛介の母は弥生の方を見やり、冷たい目を向けた。

その視線を受けた弥生は、少し気まずくなり、視線をそらすしかなかった。

瑛介の母は皮肉たっぷりに言った。「まあ、あの子は優しいね。こんな時に夫が他の女を探しに行くことを許すなんて」

弥生は耳まで熱くなり、初めて瑛介の母の冷ややかな態度を感じた。

瑛介は眉を寄せて「用事があるんだから」と答えた。

「どんな用があっても、おばあちゃんより大事なのか?」

「奈々がいなくなった。探さないといけない」

奈々の名前を聞いた瞬間、瑛介の母は動きを止めた。正直なところ、彼女は息子が奈々に対して取る態度が気に入らなか
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